ほたるや

蛍が売られてるお店のごとく、珍しくありたい

キルミーベイベー論-笑いの基本構造⑥-

さて、ここまでキルミーのいいところを挙げていたが、この作品は賛否が分かれることでも有名である
僕のように絶賛する人間もいれば、つまらないと唾棄する人間がいるのも事実である
基本、原作に否定的な意見を述べる人物は少なく、残念ながらアニメの影響が強いと言わざるを得ない

以後、キルミーに対する否定的な意見や問題点と、その反論や同調について述べていこうと思う

キルミーベイベー (6) (まんがタイムKRコミックス)


①暴力描写が身に余る
キルミーの特徴として一番挙げられるのが、バイオレンス感が挙げられよう
一々煽るやすなもやすなだが、女の子をボコボコにするのは如何なものか
子供が見て真似したらどーすんだ! 実際は怪我じゃすまねーし回復もしねーぞ!

と、確かに正論である
キルミーの最大の特徴は、最大の問題点でもあるだろう
ただ、具体名を挙げて述べるとするがクレヨンしんちゃんの暴力描写が減ったとき、多くの方はどのような意見を持ったか
「バイオレンス感がなくなって寂しい」と思ったのではないだろうか
そう思わない人であればキルミーを批判して当然だが、思ったのなら典型的ダブルスタンダードと言わざるを得ない
漫画に対して、「暴力シーン=悪」という考えを抱くのは勝手だが、それによって漫画の良し悪しを決めるのは早計だろう
また、「萌え4コマだから暴力禁止」「女の子を殴るのはいけない」と思う方もいるだろうが、どちらも個々人の思想信条の要素が強く、作品の問題点ではないと思う

②所詮萌え4コマのギャグ漫画に過ぎず、本格的なギャグ漫画と比べると低レベル
この意見は本当に多い
ギャグ漫画ファンの方からすれば、ファッションギャグ漫画というイメージが強いのだろう
ただし、僕はキルミーのギャグ…というより笑いの構成は本格派ギャグ漫画にも劣らないと考える

キルミーの笑いの構成で個人的に好きなのは、以下の二点だ

*掛詞を活用した言葉遊び
2巻の傑作4コマ、アイスの回(77p~)を題材にさせて、解説する
《公園でアイスを食べるやすなとソーニャだが、自分の当たり付きのアイスが外れて、ソーニャのアイスに当たりが出る
悔しいやすなは大量のアイスを購入するが、全然当たらず、ソーニャにあげた一本に限って当たりが出る
ここであぎりさんが登場

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その後あぎりさんの忍術(?)で当たり付きのアイスを得たやすなは、喜び勇んでアイスを取り替え、食べたのだが…

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この落語のように綺麗な言葉遊びの数珠繋ぎがキルミーの魅力である
この話以外にも、掛詞を活用した笑いはしばしば登場する(特に初期)
確かな構成力が見受けられ、とてもじゃないがファッションギャグと唾棄するようなものではない

*やすなの巧妙な論点のすり替え…からの呆れツッコミ
これは頻繁に登場するので代表作をあげるのがむずかしいが、3巻のやすなが風邪を引いた回(33p~)の1シーンを挙げ、解説する

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この4コマを見れば分かるだろう
ソーニャは一切おかしなことを言ってないし、ツッコまれる理由はない
しかしやすなはあたかもソーニャがおかしなことを言ったかのように論点をすり替え、ソーニャに呆れたようにツッコむ
キルミーにしばしば出てくるシーンだ

このすり替えが巧みなのは、やすなのツッコミは経緯を見なければまったく違和感のないものであることだ
『やすなが風邪引いたにも関わらず学校に行き、ソーニャと絡む』という前提がなければ、やすなのツッコミは正論なのだ
つまり、この4コマだけを見ると、ソーニャが正論を述べて、やすなが正論でツッコむという異様な光景が見受けられる
このキルミーの黄金パターンは、非常に知的で高度なやりとりであると思う

以上の2点を見ても、キルミーは決してファッションギャグ漫画でなく、非常に構成に優れたギャグ漫画であることが分かると思う
確かに顔芸や下品なネタなどのベタなギャグはほとんどない
それでもなあ、キルミーは良質なギャグ…というより漫才漫画であると僕は思っている

③アニメが酷すぎる
前述の通り、キルミーはアニメ化された作品であるが、はっきり言って評価は低い
評価する声は意外と多く、二期を希望している人もいるのだが、世間一般的にはつまらない作品と思われていることだろう

僕も原作が好きで楽しみにアニメを待っていた
そして、見た


…あれ?キルミーってこんなつまんなかったっけ?


多くの方同様、こう思ったのが事実である
一話視聴後、すぐ原作を読み直したが、やっぱり面白い
なぜ、原作は面白く、アニメはつまらないと感じたのだろうか?
いや、本当にアニメはつまらなかったのだろうか、考えていきたい

*漫画とアニメの違い
ご存じの通り、漫画は視覚のみの面白さだが、アニメは視覚に加えて聴覚が加わってくる
そのため、漫画的面白さとアニメ的面白さは大きく異なるのだ

アニメ化された際に受けるギャグ漫画は、ストーリー性のあるものや顔芸などベタな笑いがあるものであることが多い
キルミーのような4コマ漫画は、毎回4コマでオチまで持っていかないといけないため、アニメで流れる際は展開がぶつ切りになってしまうことが多い
ようは小ボケ小ボケの連続で、それでも12分近く持たないことが多く、別の展開が始まってしまう
12分使ったストーリー性のあるギャグが出来ないのだ
また正統派ではあるが、顔芸などのベタベタな笑いは少ないキルミーは、一つ一つの小ボケもかなり弱く思えてしまう
そういう意味で、キルミーはアニメ向きの作品ではなかったと言えるかもしれない

アニメ会社の演出の失敗
アニメのキルミーは、天の声、話の途中でカットが変わり校長が内容のないことを呟く、SFチックな要素など、原作にはない数々の演出が出てくる
おそらく作品にシュール感を加えるような演出だが、これが悲しいくらいハマらない
アニメと漫画は別物だし、ましてやストーリー性の少ない4コマ漫画のアニメ化なんだから多少の演出は当然だ
しかし残念ながら自己満足な演出でしかなかった気がしてならない
この演出によって、原作まで(悪い意味での)シュールな作品という風評被害を受けてしまった
ただ、この演出を評価する声が意外とあるのも事実である
個人的にも、次回予告の謎の格言ぽい言い回しと、「どうする、折部やすな」非常に素敵な演出だと思う

以上の原因から、キルミーのアニメは面白く感じなかったのだろう
ただし、話が進むにつれ演出にも慣れていき、面白いと思うことが多くなったのもまた事実
前述したアイスの回や、パペットの回、手錠の回、刺客が出てくる回など原作で名作と言われる回は、アニメでもしっかり面白かった
そう思うと、アニメキルミーは言われるほど悪い作品ではなかったと思う
実際全話見終わった際には、ある種の満足感があった

中でも傑作だったのは主題歌

あまりにも意味不明かつアホな歌詞とノリと勢いが凄まじいメロディラインが魅力のOP
同じく意味不明な歌詞と独特すぎるメロディライン、さらに原作カバー裏のキルミーダンスを活用したすばらなED
衝撃的過ぎて初めは拒絶反応が強かったが、次第に惹かれていった

特に歌詞のシュールさは本当に凄い
ホーミーに動じない」とか「それとなく怒るな」とか「789でも踊り出す」とか「物真似スキルが未熟なの」って何やねん!シンガー板尾クラスの意味不明かつハイセンスな歌詞だ
意味不明な歌詞の曲って一歩間違えれば寒いだけなのだが、キルミーの曲は本当にセンスがあると思う
このセンスを本編でも生かせばよかったものの…

因みに、キルミーベイベーの二期が決定したという噂があるので、もし当ブログを読んで興味を持った方は見て頂ければ嬉しい


このように、キルミーは賛否両論分かれる作品で、否定的な意見も非常に多い
僕の反論意見もあくまで一人のファンの意見であり、主観性の強いものである
ただアニメだけ見て否定的な印象を持った方は、是非とも原作を読んで欲しいと思う
アニメ的面白さと漫画的面白さは別物で、意外とハマるかもしれないよ

(続く)